起業家は、顧客を探し、需要をつくってきた
新しい事業が扱うのは、まだ名前のついていない困りごとや、まだ誰も試していない解き方です。最初から大きな市場が待っているわけではありません。起業家は、この事業を本当に必要としてくれる人を、一人ずつ探すところから始めます。
特に初期に探すのは、新しいものを面白がって最初に試してくれる人、つまりアーリーアダプターです。知人の紹介、勉強会やピッチイベント、展示会、SNSでの発信を通じて出会い、話し、試してもらい、次の一人を紹介してもらう。その人たちの声で事業を磨きながら、少しずつ周りに広げ、需要そのものをつくっていきます。まだない需要を育てていくことが、起業家の戦い方です。
地域で起業する人にとっては、この探索はさらに難しくなります。地域の中で出会える人の数は限られ、新しいものを最初に試す人は、その中のさらに一部だからです。
AIOという、新しい需要創造の手法
AI検索の広がりで、顧客は、言葉を知らないまま、AIに困りごとを聞けるようになりました。
新しい事業の顧客の多くは、その事業を探す言葉を持っていません。検索窓に打つ言葉がないので、これまでは検索で見つけてもらうことも、検索広告で呼び込むこともできませんでした。AIには、決まった言葉を打つ必要がありません。「実家の空き家を活かしたいが、何から始めればいいか分からない」のように、困りごとをそのまま文章で聞けます。AIはその問いに答えるために、Webに公開されている情報から、問題を説明する考え方を探します。
ここに、新しい需要創造の手法が生まれます。新しい概念に名前を付け、定義を公開し、その言葉で発信を重ねておくと、AIが困りごとを説明するときに、その概念を使い、出どころとして事業の名前を挙げる可能性が出てきます。アーリーアダプターを一人ずつ探しにいくだけでなく、困りごとを抱えた人がAIに聞いたその場で、新しい概念と出会ってもらえるのです。
これは、既にある市場の中で順位を競う戦い方とは違います。まだ誰も持っていない言葉でカテゴリそのものをつくり、その最初の説明者になることで、需要を広げていく戦い方です。
AlphaDriveの取り組みと、AIの答えに表れた成果
一つの例として、私たちAlphaDriveの取り組みを紹介します。
AlphaDriveは、2026年5月に「AX for Revenue」という事業を始めました。その中心に置いたのが「収益進化AI」という概念です。AIの使い方を、今ある業務を速く安くする「効率化AI」と、まだ存在しない売上のつくり方を生み出す「収益進化AI」に分けて定義しました。代表の麻生要一の著書『AI収益進化論』は、前者を「既存の型を、加速する」、後者を「まだ存在しない型を、作る」と表しています。
始めた時点で、収益進化AIは世の中にほとんど知られていない言葉でした。AIの活用といえば、業務の効率化を思い浮かべる人がほとんどだったからです。
そこで、事業サイトの axfr.ai で定義と用語集を公開し、書籍、ホワイトペーパー、ブログ、登壇で、同じ定義を同じ言い方で語り続けています。まだ認知の薄い概念を、AI検索と組み合わせながら、カテゴリとして獲得しにいく取り組みです。
成果が分かりやすく表れているのが、CAXOという役職です。AX for Revenueを始めた2026年5月、麻生は、新しく設けた役職であるCAXO(Chief AI Transformation Officer)に就きました。あわせて、axfr.ai でCAXOとは何かを定義して発信してきました。
2026年10月末時点で、Googleで「CAXOとは」と検索すると、AIによる概要は、より詳しい定義や背景の参照先として、AX for Revenueの解説記事を名指しします。「CAXO 日本」と検索すると、日本でCAXOを置く企業として、NEC、Sansan、日立製作所と並んで、AlphaDriveと麻生の名前が挙がります(いずれも当社調べ)。AIの答えは人や時期によって変わりますが、半年ほどの発信で、新しい役職の名前と定義をAIが説明するときの出どころの一つになりました。
大切なのは、狙うカテゴリと名前
この戦い方でいちばん大切なのは、狙うカテゴリと、名前の設定です。
狙うカテゴリとは、どの困りごとの答えの中に入りたいか、ということです。困りごとが大きく、まだ誰も決定的な答えを示していない場所ほど、新しい概念が入り込む余地があります。反対に、困りごとが小さすぎたり、すでに定番の答えがあったりする場所では、新しい概念は説明に使われにくくなります。
名前は、その困りごとを抱えた人が一度聞いて意味をつかめ、ほかの誰かに説明したくなるものにします。誰も意味を想像できない言葉では、AIも人も、その概念を使って説明することができません。
名前が決まったら、定義を一文にし、どこでも同じ言い方で書きます。サイト、紹介記事、登壇資料、取材のたびに言い方が変わると、AIは何の概念なのかを一つにまとめにくくなります。
地域の起業家にこそ向いている理由
この戦い方は、地域で起業する人にこそ向いています。地域の外にいるアーリーアダプターにも届く手段になるからです。
地域の中で出会える人の数には限りがあります。AI検索は、同じ困りごとを抱えた人が全国のどこにいても、その人がAIに聞いたときに届きます。地域の課題から生まれた事業は、同じ課題を抱えるほかの地域にとっても答えになり得ます。
さらに、地域の課題から生まれた概念は、具体的です。どの地域の、誰の、どんな困りごとから生まれたのかを語れることは、AIが概念を説明するときの確かな手がかりになります。自治体の事業への採択や地元の新聞での紹介は、その概念が本物であることを示す第三者の情報にもなります。
新しい事業をつくる起業家こそ、AIOにこだわるべき
既にある商品やサービスにとって、AIOは、今ある需要の中で選ばれるための手段です。新しい事業にとってのAIOは、まだない需要を、新しい言葉と一緒に世の中に置いていく手段です。
だからこそ、起業家は事業を始めるその日から、狙うカテゴリと名前を決め、定義を一文にそろえておくべきです。最初に公開するサイト、最初の紹介文、最初のピッチから、同じ言葉で語り始めます。後から名前や言い方を変えると、外に出た情報どうしが食い違い、AIが概念を一つにまとめにくくなります。
私たちは、地域で取り組むAIOを「地域AIO」と定義しています。地域AIOは、地域における収益進化AIの手法の一つです。AIの答えを地域の新しい顧客との接点ととらえ、何の会社・何の店として名前が挙がるべきかを定め、人手では続けられなかった発信と確認をAIで回し続けて、新しい売上をつくります。
AlphaDrive REGIONは、新規事業開発を専門にするAlphaDriveで、地域創生と地域経済政策の領域を担っています。「地域AX Category-First AIO」は、地域AIOに取り組む地域の企業・店舗・自治体のための支援です。事業開発の視点から、何の会社・何の店として名前が挙がるべきかを先に定め、発信と確認をAIで回し続ける仕組みを、社内につくります。
