なぜ、AI活用のテーマは決まらないのか?

生成AIを使える環境は整ってきました。総務省の調査では、2025年10月末時点で、都道府県と指定都市のすべてが生成AIを導入しています。それでも、職員一人ひとりの手元では、「何に使えばいいのか分からない」という声をよく聞きます。

何に使うかが問われるようになったのは、AIで作るコストが崩れたからです。『AI収益進化論』は、この変化をCCC(Completion Cost Collapse/完成コストの崩壊)と呼び、ソフトウェアの完成品を作るための限界費用が、ほぼゼロに近づいた状態と定義しています。地域や行政の仕事に引きつけて見ると、同じ崩壊は、文章と資料、チラシや画像、Web上の作業、情報収集にも広がっています。外に頼むしかなかったものの一部を、職員が自分で作れるようになりました。

前提が変わったので、問いも変わりました。「AIを使うかどうか」ではなく、「何に使うか」です。ところが、この問いには、つまずきやすい形が2つあります。

1つは、AIから考えることです。「AIで何ができるか」の一覧を眺めても、自分の仕事とはつながりません。結局、調べものや要約にときどき使うだけで止まります。もう1つは、大きく構えることです。「AIで地域の課題を解く」と掲げても、何から手をつければよいかが見えません。

テーマは、自分の業務の中から見つけます。この記事では、そのための3つの視点を紹介します。

  • 視点①:行政のどんな業務を、AIで扱うのか(行政AXの3つの段階)
  • 視点②:自分の業務の、どこがAIと相性がいいのか(AIの6つの使い方)
  • 視点③:どうすれば、AIの力を引き出せるのか(アウトプットの質の方程式)

3つは、順に答える手順ではありません。どこから考えても構いません。手元にメモを用意して、自分の業務を思い浮かべながら読み進めてください。

視点①:行政のどんな業務を、AIで扱うのか?

AIで扱える行政の業務は、思っているより幅があります。そのイメージを持つための参考になるのが、ホワイトペーパー『行政AX』改訂第2版が示す、行政AXの3つの段階です。

段階ひとことで何をするか業務の例AIによる効果
効率化AI時間を取り戻すいまある仕事を、AIで速くする文書の作成・要約、調べもの、資料づくり仕事にかかる時間
財政改善AI作る力を取り戻す外から買っていた完成品を、自分で作る計画の調査・素案、広報物、簡単なシステム外に頼んでいたものの出来と費用
地域価値創造AI地域の未来をつくる職員がAIで政策を立て、地域で実行する地域の課題を解く道具を作り、実装する地域で実際に何が変わったか

この表は、順番に進むための段取りや、自分の力を測る物差しではありません。行政のどのような業務をAIで扱おうとしているのか、そのイメージを持つための枠組みです。1つの課の中で、3つが同時に進むこともあります。

自分の業務を、3つの段階に当てはめて書き出してみてください。

  • 効率化AI:毎日繰り返している、文書や資料、調べものの仕事は何か
  • 財政改善AI:自分の課で、外に頼んでいる仕事は何か。人手がなくて、諦めている仕事は何か
  • 地域価値創造AI:地域で、行政のサービスが届いていない人や時間、場所はどこか

AIの活用というと、1つ目の効率化だけを思い浮かべがちです。けれど、CCCで作るコストが崩れたいまは、2つ目、3つ目の業務も、職員がAIで扱える範囲に入っています。3つの段階を眺めると、テーマの候補の幅が広がります。

視点②:自分の業務の、どこがAIと相性がいいのか?

次は、自分の業務とAIの相性です。AIの使い方は、大きく6つに分けられます。CCCで崩れた5つのコスト(ソフトウェア、クリエイティブ、文章と資料、Web上の作業、情報収集)が、そのままAIの使い道の地図になり、そこに考える相手としての使い方が加わります。

区分使い方何をするか行政の仕事での例
答える1. 情報収集調べる、集める、読み比べる、要約する他の自治体の施策を集めて比べる。国の通知の要点をまとめる
答える2. 相談・壁打ち考えを広げる、整理する、反論をもらう新しい事業の案を出し合う。説明の筋を確かめる
作る3. 文章・資料作成文章や資料を作る報告書の骨子、住民向けの案内文、議会答弁の下書き
作る4. クリエイティブ生成画像、チラシ、動画、音声を作るイベントのチラシ、説明用の図
作る5. ソフトウェアツールの作成Webページや業務の道具を作る手続きの案内ページ、集計の道具、新旧対照表を作る道具
代わりに動く6. AIエージェント目的を受け取り、手順を自分で組んで作業を進める定型の照会について、資料を探し、回答を様式に書き込み、抜けを確かめるまでを任せる

自分の1週間の仕事を書き出し、それぞれの横に、6つの使い方のどれが当てはまりそうかを書いてみてください。当てはまる使い方が多い業務ほど、AIと相性がいい業務です。

仕事を作業に分け、組み合わせで考える

1つの仕事は、たいてい複数の使い方の組み合わせでできています。たとえば計画づくりは、情報収集で他の自治体の計画と国の方針を集め、相談・壁打ちで論点を整理し、文章・資料作成で骨子にまとめる、という組み合わせです。

仕事をひとかたまりで見ると、「これはAIには無理だ」と感じます。作業に分けると、AIに任せられる部分が見えてきます。

自分のツールで、できるかを確かめる

行政職員の多くは、組織が決めたツールを、決められた環境で使います。同じツールでも、契約や設定によって使える機能が違います。候補に挙がった使い方が、自分のツールでできるかを確かめてください。

できないことがあっても、道は一つではありません。Excelの中でAIを使えなくても、チャットで関数を書かせて、自分のExcelに貼ることはできます。画像を作れなくても、図をWebページとして描かせることはできます。ただし、組織が認めていないツールに、業務の情報を入れることはしません。

視点③:どうすれば、AIの力を引き出せるのか?

テーマの候補が見えても、試してみると、出てきたものに「うまいけど、普通だな」と感じることがあります。整っていて破綻もないのに、どこの組織でも通る一般論になる。AIの能力が低いからではありません。AIは、渡されていないことを知らないからです。

AIを「普通」から「その仕事の専門家」に変えるのが、次の方程式です。

AIのアウトプットの質 = ノウハウ × 背景情報 × フィードバック

要素中身住民向けの案内ページを作るなら
ノウハウその種類の仕事に共通する、やり方の型伝わる案内ページの作り方、良い例と悪い例
背景情報この仕事に固有の情報どの手続きで、誰が、何に困って問い合わせてくるか
フィードバック出てきたものに対する、自分の判断「高齢の方には、この言葉が分からない」

ノウハウ:その仕事のやり方の型

ノウハウは、その種類の仕事に共通する、やり方の型です。どういう型がうまくいくのか、何をすると失敗するのか、良い例と悪い例はどこが違うのか。

ノウハウには、AIに調べてもらえば手に入るものと、手に入らないものがあります。伝わる案内ページの一般的な作り方は、AIに調べさせれば集まります。一方で、課の中で受け継がれてきたやり方や、自分が経験から身につけたコツは、どこにも書かれていません。こうしたノウハウは、自分で言葉にしてAIに渡します。

背景情報:この仕事の情報

背景情報は、この仕事に固有の情報です。何のための仕事か。これまでの経緯。関係する人と、その人たちが気にしていること。決まっていることと、まだ決まっていないこと。

経験10年の人が転職してきて、初日に庁内向けの案内文を書いたとします。文はうまい。でも、この組織の言葉づかいや、去年の経緯までは入っていません。書く力が低いからではなく、知らないからです。背景情報を渡さずにAIに頼むときも、同じことが起きています。

背景情報は、全部を自分で書く必要はありません。手元にある企画書や議事録、メールを渡す。公開されている情報は、AIに調べてもらう。それでも足りないことは、AIに質問してもらって答えます。

フィードバック:何が違うかを、言葉にして返す

フィードバックは、出てきたものを見て、何が違うかを返すことです。「もっと良くして」だけでは、AIはどこを直せばいいのか分かりません。「相手は初めて聞く住民なのに、前提を知っている書き方になっている」まで言えれば、直す方向が見えます。

3つは足し算ではなく、掛け算です。ノウハウがなければ型の外れたものが、背景情報がなければどこにでも当てはまるものが、フィードバックがなければ自分の基準に合わないものが出てきます。どれか一つが欠けると、出力は一般論に戻ります。

テーマを自分の業務から選ぶのは、このためでもあります。自分の業務なら、背景情報を手元に持っていて、出てきたものの良し悪しも判断できます。

テーマは、どう決めればいい?

3つの視点は、テーマの候補を見つけるための手がかりです。正しいテーマを1つ選ぶための物差しではありません。テーマは、何でも構いません。

大切なのは、とにかく試してみることです。AIに何ができて、何ができないのか。その境目は、話を聞いたり考えたりするだけでは掴めず、自分の仕事で使って初めて分かります。良いテーマを探して手が止まるくらいなら、気になった業務で、今日試すほうが多くを学べます。

試すときは、自分で問いを置きます。「この照会への回答、AIに下書きさせたら、どこまで使えるだろう」「窓口でよく受けるこの質問に答える案内ページを、AIで作れないだろうか」「来月のイベントのチラシ、外に頼まずに作れないか」。問いの形にすると、何を確かめるために試すのかがはっきりします。

結果が思ったとおりでなくても構いません。ここまではできて、ここから先はできない。こう頼めば変わるが、こう頼んでも変わらない。それが分かったこと自体が、次に試すときの手がかりになります。出てきたものに納得できないときは、自分で書き直さずに、何が違うのかを伝えてAIに直してもらいます。何をどう伝えれば納得できるものになるのかは、最後までやらせてみないと分かりません。

ただし、試す題材の情報の扱いだけは守ります。個人情報や、公表を前提としない情報は入れません。組織が認めているツールとルールの範囲で、公開されている情報や、機密に触れない題材から試します。組織として、どの段階から、どの分野で取り組むかは、「行政AXは何から始める?最初のテーマの選び方」で解説しています。

試したら、次に何をする?

できれば、作ったものを人に見せて、フィードバックをもらいます。

視点③のフィードバックは、自分からAIへ返すものでした。ここで言うのは、向きの違う声です。作ったものを見た人から、自分がもらう声です。自分では気づけなかったことに、気づかせてくれます。

最初の相手は、隣の席の同僚で構いません。たとえば、窓口でよく受ける質問をまとめた案内ページを作って見せたとします。「字が小さくて、年配の人は読めない」と言われるかもしれません。「そもそも、聞きに来る人は窓口の場所が分からなくて困っているのでは」と言われるかもしれません。後者は、困りごとそのものへの声です。自分が思っていた困りごとと、相手の本当の困りごとが違っていたと、出す前に気づけます。

紙の企画書を回していたら、この会話は起きません。多くの人は、無難な感想を返します。動くものが目の前にあると、自分が使う場面を思い浮かべて、本当に引っかかったことを口にします。AIでその日のうちに作れるようになったいま、この声を、作ったその日に聞けます。

「違う」と言われることは、失敗ではありません。自分の思い込みに、出す前に気づけたということです。言われたことを直して、また見せる。直したことは、ノウハウや背景情報として書き残し、次にAIに渡します。人が異動しても、その仕事のやり方は課に残ります。

テーマは、手元の仕事の中にあります。まず一つ、自分で問いを置いて、試してみてください。

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