人が減る地域で、AIに何を期待するか?
地域で事業を続ける難しさは、年々増しています。人口が減り、働き手が減り、顧客や取引先も減っていきます。人手不足は、業種を問わず聞かれる課題になりました。
こうした状況で、AIはまず人手不足を補う道具として期待されます。問い合わせへの返信、書類の作成、データの集計をAIに任せ、少ない人数でも仕事が回るようにする。これは必要な取り組みです。
ただ、人手を補うだけでは、事業が縮んでいく速さを緩めるにとどまります。国の地方創生2.0基本構想は、人口規模が縮小しても経済を成長させるには、地方経済が「コストカット型から高付加価値型の経済へと移行すること」が不可欠だとしています。少ない人数で、これまでより大きな価値を生む。地域に求められているのは、この変化です。
地域AXは、この変化にAIを使う取り組みです。AX(AIトランスフォーメーション)は、AIを前提に、意思決定や仕事の進め方を見直すことを指します。地域AXでは、その見直しの行き先を、地域企業の新しい収益と付加価値に置きます。
業務を速くするAIと、収益をつくるAIは何が違う?
AIの使い方は、目的によって大きく2つに分けられます。
1つめは効率化AIです。今ある業務を速く、正確にし、時間や費用を減らします。既存の仕事の型を、AIで加速する使い方です。成果は、減った作業時間や費用で測ります。
2つめは収益進化AIです。AIを使って、新しい商品やサービス、新しい顧客との接点、新しい売り方をつくります。まだ存在しない型をつくる使い方です。成果は、新しく生まれた売上や付加価値で測ります。この区別は、AlphaDrive代表の麻生要一が著書『AI収益進化論』で示したものです。
地域AXが核に置くのは、収益進化AIです。効率化AIを否定するわけではありません。多くの企業にとって、AIを使い始める入口は効率化です。分かれ目は、効率化で生まれた時間を何に振り向けるかにあります。浮いた時間が別の作業に吸収されれば、事業の稼ぎ方は変わりません。その時間を、顧客の話を聞くことや、新しい商品を試すことに使って、はじめて収益の変化につながります。
AlphaDriveの人材論をまとめたホワイトペーパー『AXアーキテクトの実装論』は、AIによる1.2倍から1.5倍の改善を、生産性の向上としては評価しつつ、AXとは呼んでいません。同書は「100倍にできなかったら、AXしているとは言わない」と書いています。AXと呼ぶには、仕事の進め方そのものが変わるほどの、桁の違う変化が要るという考え方です。効率化から入ってよい。ただし、そこで止めずに、稼ぎ方が変わるところまで進めるかが問われます。
AIで、地域の企業にできるようになったことは?
生成AIの進化で、エンジニアでなくても、Webページや業務ツール、画像、動画、簡単なアプリをつくれるようになりました。日本語で指示を出し、出てきたものを確かめて直す。この往復で、使える形まで仕上げられます。
これまで、新しい商品や売り方を試すには、企画、デザイン、開発をそれぞれ外部に頼む必要がありました。費用も時間もかかるため、地域の中小企業が新しいことを試せる回数は限られていました。一度つくると、うまくいかなくても直しにくい。そうした事情が、挑戦の数そのものを減らしてきました。
AIは、この前提を変えました。試作品をつくり、顧客に見せ、反応を聞いて直す。この往復を、自社の中で、短い期間に何度も回せます。商品の選び方を案内するページ、職人の技術を記録して伝えるツール、海外の顧客に向けた多言語の説明。どれも、以前なら外注の予算が要ったものです。
同じAIを使えば、どの地域も同じ結果になる?
AIの道具は、いまでは誰でも手に入ります。東京の大企業も、地方の小さな会社も、同じ道具を使えます。それでも、成果は同じになりません。
AIが持っているのは、世の中の一般的な知識です。その地域の顧客が何に困っているか。職人の技術のどこに価値があるか。地域の誰と組めば事業が動くか。こうした現場の知識は、AIの中にはありません。何も渡さなければ、AIはどこにでも当てはまる一般論を返します。
逆に、現場の知識を持つ人がAIを使えば、一般論ではない答えを引き出せます。『AXアーキテクトの実装論』は、現場での体験を通じてしか得られない知識をFI(Field Intelligence、現場知)と呼び、人にしか持てない知性として重視しています。地域の企業や行政、住民は、このFIを豊富に持っています。
AIが誰にでも使えるようになったいま、成果を分けるのは道具の差ではありません。現場の知識を持つ人が、AIを使いこなせるかどうかです。ここに、地域にとっての好機があります。
なぜ、担い手を地域の中で育てるのか?
AIで何をつくれば稼げるのか。それを形にし、顧客に確かめ、直し続けるのは誰か。地域AXの成否は、この担い手がいるかどうかで決まります。
外部の専門家に頼る方法もあります。短い期間で成果物をつくるには有効です。ただ、支援の期間が終われば、専門家が地域に関われる時間は限られます。つくったものを直す人や、次の事業を考える人が地域に残っていなければ、取り組みはそこで止まります。AIの道具も事業の環境も、月単位で変わります。一度つくって終わりにすると、すぐに古くなります。
そのため地域AXでは、担い手を地域の中で育てることを中心に置きます。企業の経営者や社員、行政の職員、金融機関や商工団体の職員、大学や高専の学生。地域の課題に向き合う人なら、誰もが担い手になれます。高度な技術者である必要はありません。求められるのは、事業を組み立てる力と、AIで形にする力の両方です。AlphaDriveは、この2つをあわせ持つ人材を「AXアーキテクト」と呼んでいます。
担い手を育てるには、一つの組織だけでは足りません。地域AXホワイトペーパーは、自治体、大学・高専、地域金融機関、商工会議所・商工会、地域企業の5者が協働して育てるモデルを示しています。
地域AXは、何から始め、何で確かめる?
地域AXは、大きな計画から始める必要はありません。1社の、1つの事業から始められます。経営者と現場の人が、自社の強みと顧客の困りごとを出し合い、AIで試せるテーマを1つ決めます。試作品をつくって顧客に見せ、その反応で直します。この往復を一度回すと、次に何を試せばよいかが見えてきます。
成果は、削減した時間だけでは測りません。新しく生まれた売上や付加価値、立ち上がった事業の数で確かめます。あわせて、支援が終わった後も自分たちで試し続けられる人が、地域に何人残ったかを見ます。
AlphaDrive REGIONは、地域AXを3つの取り組みで進めています。地域企業とともに、AIを使った新しい売り方や事業を形にする「地域企業のAX支援」。地域の中で担い手を育てる「AXアーキテクトの育成支援」。行政の職員がAIでつくる力を育て、自らも地域の担い手として動く「行政AX」です。行政が自らAIでつくり、確かめた経験を持てば、地域企業への支援も具体的になります。企業だけでなく行政も、地域の稼ぐ力を育てる担い手の一人だと考えています。