「地域AX」は、国の文書にいつ登場した?

国の文書で「地域AX」が政策として書かれたのは、2026年7月14日に閣議決定された人工知能基本計画(第Ⅱ期)です。2025年12月に閣議決定された第Ⅰ期の計画には、この語はありませんでした。

続いて7月21日には、地域未来戦略が閣議決定されました。地域未来戦略は、都道府県や市町村が地域の産業クラスターや地場産業を伸ばす計画をつくり、国が後押しする枠組みです。その横断的な施策の一つに、AIトランスフォーメーション(AX)が置かれています。

8月末には、各省が令和9年度の概算要求を出しました。総務省は「地域AXの推進」を新しい事業名として要求しています。9月30日の地域未来戦略に関する関係副大臣等会議でも、地域の計画に共通する施策として「自治体AXや消防AX、地域AXの推進」が示されました。

AXという言葉そのものについて、人工知能基本計画は、あらゆる組織で、AIを前提として意思決定や業務の進め方を根底から見直すことだと説明しています。総務省も、概算要求の資料で同じ趣旨の定義を示しました。

人工知能基本計画は、地域AXをどう書いている?

人工知能基本計画は、基本的な方針の中で次のように書いています。

「人手不足が特に顕在化する地方部における中堅・中核企業へのAI導入・定着を伴走しながら進め、地方の伸び代を成長に転換するため、「地域AX」を推進する。」

具体的な取組としては、経済産業省を主担当、総務省を共同の担当として、次の項目を挙げています。

「地域AXの推進のため、大規模成長投資補助金やデジタル化・AI導入補助金を始めとする中堅・中小企業におけるAI導入に加え、中小企業がAXを推進するための地域ごとのネットワーク構築や伴走支援を行う支援機関のAI支援レベルの底上げ、AIを活用した地域密着型の新規事業の立ち上げやAI等のデジタル技術を活用した先進的な地域課題解決プロジェクトの創出を支援する。」

この一文には、4つの柱が入っています。企業へのAI導入の補助、地域ごとの支援機関のネットワークと伴走力の底上げ、AIを使った地域密着型の新規事業の立ち上げ、先進的な地域課題解決プロジェクトの創出です。後半の2つが、次に見る総務省の要求に対応しています。

同じ計画は、自治体の側についても「AIによる自治体業務の構造変革(自治体AX)」を掲げました。こちらの主担当は総務省です。

地域未来戦略では、どこに位置づけられた?

地域未来戦略は、地域の産業を3つの類型で伸ばす考え方を取っています。国が主導する戦略産業のクラスター、知事などが主導する地域産業のクラスター、地場の中小企業が中心の地場産業の成長プランです。都道府県や市町村がこの類型に沿った計画をつくり、関係副大臣等会議で報告していきます。

AXは、この3類型のすべてに共通する下支えの施策として置かれました。戦略の本文は、計画をつくって実行する自治体も、クラスターを構成する企業も、人材不足が深刻だとしています。そのうえで、AIは人材不足を乗り越える好機だが、スキルやノウハウに手が届きにくいと指摘し、自治体と企業へのAIツールの導入と、AIを使える人材の育成を進めるとしています。

主な施策の例は3つです。自治体AXや消防AX、地域AXの推進。AXの実現に向けた企業経営改革の支援。大学・高専の数理・データサイエンス・AI教育と、中小企業のAX推進のためのリスキリングプログラムの開発による、地域のAI人材の育成です。本文の前半には、地方を「AIトランスフォーメーション(以下「AX」という。)の始まりの場所とすべく」という表現もあります。

なお、8月28日に示された地域未来戦略の予算パッケージには、AXの語は出てきません。地域未来戦略の中で地域AXの財源になるのは、各省がそれぞれ要求したAXの予算です。

総務省の令和9年度概算要求には、何が入った?

総務省は「中堅・中核企業から地域企業に至るまで、AI導入を一気呵成に進める地域AXの推進」として、102.2億円を新規に要求しました。全額が、新しく設けられた「強く豊かな日本」投資枠での要求です。資料はねらいを、地域の中堅・中核企業でAI導入を進め、「大企業を一気に追い抜く」ための支援を強めることだと説明しています。中身は2つです。

1つは、ローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)に設ける「地域AX特別枠」(仮称)で、43.2億円です。AIによる業務変革や新たな価値創出を実現する、地域密着型の新規事業の立ち上げを支援します。事業主体は民間企業等で、補助の形を取ります。資料には、ウイスキーのブレンドにAIを活用する例や、伝統工芸職人の暗黙知をAIで継承する例が載っています。

ローカル10,000プロジェクトは、産官学金が連携し、地域の資源と資金を使った新しい事業の立ち上げを支える既存の制度です。交付金は自治体を通じて出ます。地域金融機関から公費の助成と同額以上の融資等を受けることが条件です。助成の上限は原則3,000万円で、融資の額に応じて最大5,500万円まで上がります。補助の対象は、施設整備・改修費、機械装置費、備品費などの初期投資です。地域AX特別枠で上限や補助率、対象経費を同じにするかは、まだ公表されていません。

もう1つは、地域社会AX/DX推進パッケージ事業に設ける「地域AX先導タイプ」(仮称)で、59.0億円です。AIなどのデジタル技術を使った、先進的な地域課題解決プロジェクトの創出を支援します。事業主体は自治体と民間企業等で、国からの請負による実証です。資料の例は、ローカル5Gなどを使った地域鉄道のAIインフラ保守と、養殖業のAIによる遠隔管理です。同じパッケージ事業には、地域のAXに向けた課題の整理や、AIの導入・運用計画の策定に専門家が助言する支援も入っています。

この102.2億円とは別に、自治体の側にも新しい要求があります。業務プロセス全体の自動化やAIエージェントの導入を、人口規模別に実証する「自治体AX/DX推進事業」が7.2億円です。都道府県が確保した自治体DXアクセラレータによる市町村のAX/DX支援を広げる事業には、2.0億円が要求されました。過疎地域の支援にも、省力化に強いAIの活用を進める特別枠が設けられ、集落ネットワーク圏の事業では、AIやICTを使う事業の補助の限度額が1,000万円上乗せされます。

国の「地域AX」は、何を目指している?

国の文書を並べると、軸はAIの導入と定着です。人工知能基本計画は中堅・中核企業へのAI導入と定着を伴走しながら進めるとし、地域未来戦略は自治体と企業へのAIツールの導入と人材育成を掲げています。

その中で、AIによる新たな価値創出や、地域密着型の新規事業の立ち上げまで明記しているのが、総務省の地域AX特別枠です。人工知能基本計画の具体的な取組にも、同じ言葉が入っています。

ここからは、AlphaDrive REGIONの見方です。私たちは、この点に注目しています。AIを導入して業務を効率化するだけでなく、AIで地域企業の新しい事業や売り方をつくる取り組みに、国の予算を使える道が開かれようとしているからです。一方で、新しい事業は、制度ができただけでは生まれません。何をつくれば稼げるかを決め、試作し、顧客に確かめ、直し続ける人が、地域の中に要ります。国の文書が、支援機関の伴走力の底上げや、地域のAI人材の育成を並べて書いているのも、この担い手の問題を意識したものだと読んでいます。

予算は、いつ決まる?今から何に備えられる?

次の節目は、12月下旬に閣議決定される見込みの令和9年度政府予算案です。地域AX特別枠や地域AX先導タイプ、自治体AXの事業が残るか、額がどうなるかが、ここで決まります。10月9日には、租税特別措置・補助金・基金の見直しに関する関係閣僚等会議が開かれ、見直しを年末にかけて深掘りする指示が出ました。新しく要求された事業は、この過程で中身や額が変わりえます。地域AX特別枠の上限、補助率、対象経費、募集の時期も、要綱が出るまでは分かりません。

それでも、今から備えられることはあります。以下は、国の制度の枠組みから考えられる備えです。

自治体は、来年度の事業を検討する中で、地域企業のAI活用を導入で終わらせず、新しい事業や売り方につなげる設計を考えておけます。地域AX特別枠がローカル10,000プロジェクトの枠組みに乗るなら、申請は自治体が行い、地域金融機関の融資がセットになります。自治体と地域金融機関、地域企業が、事業の候補を早めに話し合っておくことが助けになります。地域未来戦略の計画をつくる県や市は、計画にAXをどう書き込むかも検討しておけます。

地域金融機関や商工団体は、取引先や会員の中から、AIで新しい事業を試したい企業を見つけておけます。特別枠が融資とセットになるなら、事業の中身を見る役割はさらに大きくなります。人工知能基本計画が支援機関のAI支援の底上げを掲げていることは、支援する側が自らAIを使う力を備える後押しにもなります。

地域企業は、AIで試したい事業のテーマを決め、小さな試作品で顧客の反応を確かめておけます。制度の要綱が出てから考え始めるより、確かめた手応えをもとに計画を書くほうが、事業の中身は具体的になります。

この記事は、2026年10月13日時点の公表資料をもとにしています。政府予算案と各事業の要綱が公表されたら、内容を更新します。

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