AXアーキテクトは、どう定義されている?
AXアーキテクトは、AlphaDriveが提唱している人材像です。国が定めた呼称ではありません。ホワイトペーパー『AXアーキテクトの実装論』は、次のように定義しています。
「AXアーキテクト = ビジネスアーキテクトが土台として持つ能力 × AI時代に固有の能力」
ビジネスアーキテクトは、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)の「デジタルスキル標準」が、DXを推進する人材の一つとして定めた役割です。2026年4月に公表されたver.2.0は、この役割に最も重要なスキルとして、技術よりも、経営戦略や顧客・関係者を理解し、人と協働する力を挙げています。課題を捉え、仮説を確かめながら事業を組み立て、関係者を動かして合意をつくる力です。
AI時代に固有の能力として、同書は3つを挙げています。
1つめはAI SPRINTです。AIに大量の情報を投げ込み、出てきた答えを判定して直し、別の種類の情報を足してまた投げ込む。この発散と収束を繰り返し、AIを使い倒す力です。
2つめはAIオーケストレーション(AI Orchestration)です。得意分野の異なる複数のAIを使い分け、組み合わせる設計の力です。AIどうしが食い違う答えを出したとき、どの観点で一つの筋にまとめるかを決めるのは人です。
3つめはFPL(Full-Product Launch)です。ソフトウェアや文章、画像、映像といった「もの」を、自らAIを使ってつくり、使える形で世に出す力です。同書は、AIの3つの力の中でこれを最も重要としています。
2つの能力の関係は、足し算ではなく掛け算です。AIの力だけがあっても、何をつくるべきかが定まらず、便利なものが増えるだけになります。事業を組み立てる力だけがあっても、構想を形にするたびに外部に頼むことになり、試せる回数が限られます。どちらかが欠ければ、AXアーキテクトは成り立ちません。
なぜ今、この人材が必要なのか?
AIで、ものをつくる費用と時間が大きく下がったからです。
これまでの新規事業では、本格的につくる前に、できるだけつくらずに顧客の反応を確かめることが定石でした。つくるのに時間とお金がかかったためです。いまは、使える形まで短い期間でつくり、実際に見せて確かめられます。『AXアーキテクトの実装論』は、この変化を受けて、FPLについて「『AIが作ってくれる』のではない。『AIを使って自分が作る』のである」と書いています。
ただし、AIでつくれるようになっても、それだけで事業は変わりません。同書は、仕事をAI化によって大きな変化が出る領域と、AI化しても大きくは変わらない領域に分けています。後者には、顧客との関係づくり、経営会議での合意形成、関係者の利害の調整、現場の改革の推進が入ります。ここに無理にAIを持ち込むべきではない、というのが同書の立場です。
AIでつくった成果は、人が関係者を動かす場に持ち込まれて、はじめて事業を変えます。だからこそ、AIの力の土台に、事業を組み立て、人を動かす力が要ります。同書は、AIに任せる領域と人が担う領域を見極めることを、AXアーキテクトに最初に求められる力としています。
国の人材政策と、どう重なる?
国も、地域でAIを使う人材を育てる必要性を、政策文書に書き始めました。
2026年7月に閣議決定された地域未来戦略は、自治体と地域の企業でAIの導入を進め、AIを使える人材を育てるとしています。施策の例には、大学・高専の数理・データサイエンス・AI教育と、中小企業のAX推進のためのリスキリングプログラムの開発が挙がっています。同月の人工知能基本計画は、中小企業のAXを伴走支援する支援機関について、AI支援の水準を底上げすると書いています。総務省は、都道府県が確保した自治体DXアクセラレータが市町村のAXを支える体制づくりを、令和9年度の概算要求に盛り込みました。
一方で、地域に人材を届ける国の既存の制度は、多くが外部の専門人材を派遣・任用・登録する形です。地域活性化起業人、プロフェッショナル人材事業、自治体DXアクセラレータなどが当たります。地域AXホワイトペーパーは、これらを短期の補完として有効と認めつつ、地域の中で担い手が育ち続ける仕組みは、国の制度だけでは埋まらない「人材の空白」だと指摘しています。外部の人材は、最終的に地域の中の担い手に引き継ぐことを前提に使う、というのが同書の考え方です。
なぜ、地域の中で育てるのか?
理由は3つあります。
1つめは、地域の現場の知識が、地域の中にあることです。その地域の顧客や技術、人のつながりについては、AIも、外から来た専門家も、すぐには知り得ません。現場の知識を持つ人がAIを使いこなすことが、一般論ではない答えへの近道です。
2つめは、取り組みを続けられることです。AIの道具も、事業の環境も、月単位で変わります。つくったものを直し、次の事業を考える人が地域にいれば、外部の支援が終わった後も取り組みは止まりません。
3つめは、育った人が次の人を支える側に回れることです。地域AXホワイトペーパーは、1人のAXアーキテクトが最初は1社の伴走から始め、経験を積むにつれて複数の企業を支え、やがて後に続く人を育てる側に回る道筋を描いています。育成の段階は、発掘、研修、実際のプロジェクトでの実践、独立・専任化、育成する側への移行の5つです。1巡りに5〜7年ほどかかると見ています。
ここで求められるのは、高度な技術者になることではありません。AIを、新しい収益をつくるために使いこなせるかどうかです。企業の経営者や社員、行政の職員、金融機関や商工団体の職員、学生。地域の課題に向き合う人は、誰でも候補になります。
どうやって見つけ、育てるのか?
前の節の5つの段階は、一人の担い手の育ち方です。その育ちを支える仕組みとして、『AXアーキテクトの実装論』は、一度の研修ではなく、4つの要素が循環する仕組みを示しています。もとになっているのは、麻生要一『新規事業の経営論』の育成論です。
最初はアセスメントです。変革を起こす人は、既存の業務で「優秀」とされる人と一致しないことが少なくありません。同書は、物事のとらえ方、行動の特性、人との関係のつくり方、考え方の傾向の4分類19項目で、変革を担う人の特性を見える化する方法を紹介しています。結果を人事評価の判断材料に使わないことも、運用の要点に挙げています。
次はコミュニティです。部署や組織を越えて相談でき、互いに刺激し合える場をつくります。変革を担いたい人は、一つの組織の中では少数派になりがちです。同じ志向の人とつながる場が、挑戦を続ける支えになります。
3つめはアサインメント、つまり実践の機会です。AIの力は、座学だけでは身につきません。自分の会社の事業や、自分の担当業務を題材に、実際につくり、顧客や利用者に見せて直す。この経験を重ねることが育成の中心になります。
4つめはコンピタンス・マネジメントです。実践で得た知恵を、うまくいかなかった理由も含めて事例として残し、次の人の学びに変えます。1つの挑戦の経験が、地域全体の知恵になっていきます。
地域でこの循環を回すには、複数の主体の協力が要ります。地域AXホワイトペーパーは、自治体、大学・高専、地域金融機関、商工会議所・商工会、地域企業の5者の協働を示しています。自治体は制度と財源と場を、大学・高専は学びの場と若い担い手を持ち寄ります。地域金融機関は事業を見る目と資金を、商工会議所・商工会は経営者のつながりを、地域企業は実践の現場を持ち寄ります。
地域では、どんな形で始まっている?
AlphaDriveが運営や伴走に関わる取り組みから、公表されている内容を紹介します。いずれも始まったばかりで、地域でどんな成果につながるかは、これから確かめていく段階です。
豊田市が主催し、AlphaDriveが運営した「TAKEOFF Camp 2026」には、高校生、高専生、大学生、社会人の23名が参加しました。2026年8月から9月の4日間と自主活動の中で、製造業の現場や地域の経営者を訪ね、課題に触れたうえで事業のテーマを考えました。初日からAIでWebページをつくり、チームでつくった試作品を想定する利用者に見せ、反応をもとに直しました。最終日には7チームが試作品を発表しています。
静岡県磐田市とは、2026年7月に地域AXの推進とAXアーキテクトの育成に関する連携協定を結びました。8月の2日間の合同研修には、市内の企業・団体と市役所から14名が参加し、全員が自分の仕事を題材に成果物をつくりました。市長も2日間参加し、災害対応をシミュレーションするシステムを試作しています。研修の後も、参加企業1社への約3か月の伴走が続いています。
高知県と室戸市とは、2026年9月に、AlphaDriveを加えた3者で連携協定を結びました。市内の2事業者に約3か月伴走し、事業者自身がAIを活用できる力を育てる計画です。
3つに共通するのは、学ぶ場で終わらせず、実際の仕事や事業に戻って試す期間を、はじめから組み込んでいることです。地域の企業と行政の職員が同じ場で学ぶ形は、担い手どうしが地域の中でつながるきっかけにもなります。