ツールを足しても、なぜ次に進まない?
AIを入れた会社の多くは、次に何をするかで迷います。別のAIツールを試す、使い方の研修を増やす、社内に利用ルールをつくる。どれも必要なことですが、それだけでは事業は変わりません。
『AI収益進化論』は、AIを入れて社員が使っている実感はあるのに、事業として何が変わったかと問われると答えにくい段階を描いています。社員一人ひとりの仕事は速くなります。ただ、事業の売上は、個人の生産性を足し合わせたものではありません。商品やサービスが、どの顧客に、どう届くかという仕組みから生まれます。
次に進むには、AIを「どう使うか」の前に、「自社のどこを変えるか」を決める必要があります。それを決められるのは、仕事と事業の両方を見渡している経営者です。
自社の仕事を、どう仕分ける?
まず、自社の仕事を書き出し、AIで大きく変わる仕事と、人が担い続ける仕事に分けます。
ホワイトペーパー『AXアーキテクトの実装論』は、仕事をこの2つの領域に分けて考えます。AIで大きな変化が出るのは、調べる、分析する、提案書や資料をつくる、Webページやツール、画像や映像をつくるといった仕事です。一方、顧客との関係づくり、社内の合意形成、関係者の利害の調整、現場の改革を進めることは、AIを使っても大きくは変わりません。同書は、こちらに無理にAIを持ち込むべきではないとしています。
2026年8月に静岡県磐田市で開いた企業と市職員の合同研修でも、参加者はまず自分の業務を3つの区分に分けるところから始めました。仕分けをすると、AIに任せる仕事と、人が時間を使うべき仕事が見えてきます。
最初のテーマは、どう選ぶ?
仕分けた中から、最初に取り組むテーマを1つ選びます。基準は、変化の大きさです。
同書は「100倍にできなかったら、AXしているとは言わない」と書いています。1.2倍や1.5倍の改善は、生産性の向上としては大切ですが、仕事の進め方は変わりません。同書は、桁の違う変化の形として3つを挙げています。100日かかっていたことを1日でできるようにする。同じ時間で10件しかできなかったことを1,000件できるようにする。かかる時間を10分の1にしながら、こなせる量を10倍にする。
例えば、見積の回答に3日かかっていたものを、その場で出せるようにする。これまで主要な取引先にしか出せなかった個別の提案を、すべての取引先に出す。こうした変化は、顧客から見た会社の姿を変えます。磐田市の研修でも、テーマは「100倍」になるものを1件に絞って取り組みました。
テーマを1つに絞るのは、試して確かめる回数を増やすためです。複数のテーマを少しずつ進めるより、1つのテーマで、つくる、見せる、直すを繰り返したほうが、早く手応えが得られます。
見立てた後、経営者は何をする?
テーマが決まったら、経営者が自分でAIを使い、小さく形にしてみることを勧めます。担当者に任せる前に、自分で一度触ると、何ができて、何に時間がかかるかの感覚がつかめます。その感覚が、次の判断の材料になります。
もう一つ大切なのは、AIでつくったものを、人が担う仕事の場に持ち込むことです。同書は、AIで生まれた成果は、それ自体では事業を変えず、顧客との対話や社内の合意形成の場に持ち込まれてはじめて事業を動かすとしています。つくった試作を顧客に見せる、会議で使う、社員と一緒に直す。ここまで進めて、最初の一手が事業の変化につながります。
11月6日(金)19時からのウェビナー「地域企業が“稼ぐ力”をAIで高める方法」では、経営者が自社の仕事と事業をAIで見直す視点を、具体的な進め方とあわせてお話しします。参加は無料です。